洗礼された戦い。

2017年06月08日

2012年ロンドンオリンピックでの金メダル獲得以降、アマチュアの世界から勝負の舞台をプロに移した村田諒太選手。
プロでの実績を着実に積み上げて、満を持して挑んだ先日のWBAミドル級世界タイトルマッチ。
金メダリストで世界チャンピオンとなれば、もちろん史上初。
長い日本のボクシング史においてWBAミドル級の世界チャンピオンは未だかつて、竹原慎二氏しかいない、、、。
それも最初の挑戦1995年でチャンピオンになって以来、誰もいないのだ。
チャンピオン誕生も去ることながら、かつてミドル級の世界戦にまでの登りつめたのは竹原氏を除いて、3人しかいない。
無残にも、全てTKOで敗れている、、、。

幾度となく、日本人ボクサーが打ちのめされてきたのがミドル級である。
日本人ボクサーにとって、あまりに高い壁。険しい道のり。
この階級において日本人が世界を制することがいかに困難なことなのか、、、。

そのミドル級において、今最も世界チャンピオンに近い男。
それが村田諒太選手である。

 

客観視出来る凄さ

そんな状況下の中、期待を一身に背負ったのが村田選手。
実際、素人目ながら、今回の挑戦は、私もかなり期待していた。
村田選手には、格闘家らしからぬ、『落ち着き』『冷静さ』を感じる。
それは会見での言動でも十分感じ取ることができる。
プロボクサーともなれば、ある意味では、ファンを楽しませる義務はある。
派手な言動、試合前の会見での相手への挑発等は一つのパフォーマンスとして取り上げられることも多い。
見てるこちらからすると、実際それが面白かったりもするし、少し期待していたりもする。
しかし、村田選手からそういった言動はほぼない。(これまでの全ての試合を観たことがないので断言はできない)

ロンドンオリンピックで金メダルを獲得したとき、笑みはあったものの、至って冷静にインタビューを受けていた。

淡々と語る村田選手に、確か、インタビュアーが【金メダルを獲得したのに冷静なんですね】的な質問を投げかけたのを覚えている。
その時、村田選手は、

[金メダルが自分のゴールであれば、うれし泣きもできるでしょう。冷静にはいられないかもしれない。
でも、金メダルを取った瞬間、それがゴールなのかスタートなのか見えなくなった。
金メダルが自分の価値ではない。
これからの人生が自分の価値だと思うので、恥じないように生きていくだけです。]

こんなコメントを残していた記憶がある。

スポーツ選手にとって、自分自身を客観的にとらえることが出来るのは凄く重要である。
村田選手の試合を観ているといつも冷静に自分自身をコントロールしながら戦っているイメージがある。
オリンピックの時も、決勝戦で僅差ながらも勝利したわけだが、相手に減点があり、わずかながら勝っていることを把握出来ていたので、無理に攻めたり一か八かの攻防戦を繰り広げたりはしなかった。
今回の世界戦でも、それを感じていたのだろう。
1Rから12Rまで実にコントロールされた試合運びにみえた。

話は変わるが、かつてイチロー選手も、WBCの決勝戦(対韓国)で決勝タイムリーを打った際、
【打席に立つイチロー選手】を鈴木イチローが心の中で、実況していたらしい。
客観視している。

 

コントロールされた試合運びとコントロール出来なかった判定

近々の試合で、物凄い右フックでのKO勝ちを収める対戦相手のアッサン・エンダム選手の映像が各局で流れる。
実際にそのシーンは凄まじいものがあった。
確かにあれを喰らったら一発で倒されるだろうな。
メディアによって様々な不安が創り上がる。

しかし、対戦する当人は至って冷静であった。
あのフックはすごい。でも、実際あれが当たる確率は相当低い。
警戒すべきはあれよりも、右のパンチ。

実際に試合が始まると、村田選手は1R〜3Rまではほんとんどガードを固め、手数を封じた。
エンダム選手にパンチを出させ続けた。
それは防戦一方に見えたが、全く違った。
パンチは出さないものの、コーナに追い詰めていたのはむしろ村田選手の方である。
よくよく試合後のコメントをきくと、3Rまでは相手にパンチを出させて、軌道、強さを見極めるためだったそうだ。
その戦いぶりは不気味なぐらい冷静で、間違いなく相手の方がプレッシャーを感じていたのではないだろうか。
ある程度相手のパンチを見極めた村田選手は、3R途中でこのパンチなら『いける』と感じていたらしい。
3Rまではパンチを見極めるとセコンドとも決めていたらしいが、3R終了間際、村田選手は強烈な右パンチを出した。
クリーンヒットしたそのパンチはこれまで静寂していた会場のボルテージを一気に上げた。

あそこでなぜパンチを出したのか。
村田選手は言う。
『3Rで相手のパンチはある程度わかった。3R終了時にパンチを出したのは、相手になめられないように』
ということらしい。

この冷静な試合運びと、精神的余裕は、脱帽する。

ギアを一気に上げた4R。
効果的に得意の右を出す村田選手。
2分を過ぎた頃、狙い澄ましたカウンターがエンダム選手にクリーンヒット。
ダウンを奪う。
エンダム選手に強烈なダメージをあたえる。

4R以降は明らかに試合は村田選手のペースになる。
いや、攻撃をさせていた3Rまでもが村田選手のペースだったのかもしれない、、、。

それでも、ふらふらになりながらも戦うエンダム選手。
それどころか手数は終始出し続ける。
流石に疲れもみえてきて、終盤はクリンチする姿は何度もあったにせよ、その戦いぶりには魂を感じた。
前評判通りすごい選手だ。

試合の方は、12Rまでをトータルでコントロールし続けた村田選手の圧勝。

と、思っていた。
たぶん、客観的にみても、ほとんどの人が『村田諒太勝利』は揺るがないものだったはず。

しかし、下された判定は、2−1エンダム選手の勝利だった。
終始手数を出し続けたエンダム選手が評価された。
効果的なパンチであればもちろん評価されるべきであるが、あくまでガードの上からのパンチでしかなかった。
と思う。
それにジャッジにこれだけのばらつきがあることにも疑問を感じた。
手数をとるジャッジと有効打をとるジャッジ、、、。

そもそも手数をとるってなんだ?
と思ってしまう。
格闘技ではあるものの、ルールに基づいてチャンピンを決めるボクシングは、一つのスポーツである。
手数でジャッジを決めるのあれば当たったパンチの数だけカウントすればいい。
ガードの上からだろうがなんだろうが、、、。

案の定、試合翌日、WBAのメンドサ会長は異例の声明文をSNS上で発表している。
それは、明らかにジャッジが誤ったもので、本来は村田選手が勝利であったものを示す。

そして、エンダム選手勝利を下したジャッジマンには罰則があたえられた。
強く再戦を要求するものだった。

世界タイトルマッチでのこのようなことが起きたことは非常に遺憾である。

村田選手はもちろん、エンダム選手も気の毒に思えてくる、、、。

この世界タイトルマッチに向けて、村田選手は多くの支えがあり、入念な準備をしてきたと語っている。
それを考えると簡単に『はい、再戦します』とは言えないという。

確かにそうだろう。

『ジャッジはコントロール出来ない。倒さなかった自分の責任』
まあ、そう言うしかないだろう。と思う。

日本人の清い気質だ。

 

しかし、ファンとしては、こんなに素晴らしい試合をした村田選手にはまだまだ戦ってほしいと思う。
今後の去就に注目したい。

 

周到な準備と計算され尽くした12Rまでの試合運び。

それを実行した実力の持ち主。

終始、コントロール出来た戦い。

コントロール出来なかったジャッジ。
いや、コントロール出来ないのはジャッジ。
今後もそうだろう。

ならば、KO、TKOまでもコントロールしてくれないだろうか。

と思ってしまうのは、一ファンの性である。

現在のミドル級最強王者、「ゲンナジー・ゴロンフキン」選手との対戦を目にすることは出来るのだろうか。

 

期待したい。

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